「自己犠牲タイプ」泰子の物語

「自己犠牲タイプ」泰子の物語

【呪いの仮面】…いい人「泰子」

 

「ごめん。最近仕事が忙しくて」

 

二回連続のデートキャンセルで、浩一は電話の向こうですまなそうに謝っている。

 

「ううん。いいよ。浩一、いつもお仕事がんばってるもんね。やっとチャンスがめぐってきたんだね。私もうれしいよ」

 

「そうか。そう言ってくれるとうれしいなあ。今は勝負どころなんだよ」

 

「そうだね。お仕事がんばってね」

 

「ありがとう」(泰子は何でも受け入れてくれるなあ。でも何か、悪いなあ……)

 

泰子はいつでも、相手の意見を全部受け入れてきた。

 

それが愛だと思ってきたし、自分のわがままでふたりの関係を壊したくなかったから。

 

泰子の恋愛は、友達に言わせると「相手に嫌われたくないばかりに、自分をなくして相手に合わせてしまう」傾向があるらしい。

 

そう言われても、泰子の中では、自分より相手を優先することは当たり前だし、今更変えろと言われてもすぐには変えられない。

 

半月後

 

「泰子。今度の週末、少し休めそうなんだ。疲れてるからあんまりいろいろできないと思うけど、会ってくれないかな?」

 

「うん。いいよ。ようやく会えるね」

 

(あ、何か寂しそうだな。ずいぶん我慢させちゃったかな)

 

浩一には、泰子の声が不満そうに聞こえた。

 

その週末、流行りのデートスポットに現れたふたりは、傍目にはとても楽しそうだった。

 

ただ、浩一は少し気になっていた。(泰子は自分の気持ちをいつも言わないからな。本当に楽しいのかな……)

 

女性の影

 

泰子は、最近浩一に対して恨みにも似た気持ちを抱えて、とても苦しく感じている。

 

浩一は確かに、泰子のことを大切に思ってくれているようだ。

 

でも、激しく胸騒ぎがするのだ。

 

その理由の一つは、今まで泰子以外とは携帯メールをしなかった浩一が、誰かとメールしていること。

 

先日たまたま置いてある携帯にメールが着信した瞬間、女性の名前が表示されたのを見てしまったのだ。

 

(浩一に限ってまさかね……。でも……)

 

泰子は、胸の中がかきむしられるような不安を感じていた。

 

今までこんなに大切に思い、尽くしてきたのに、捨てられるなんて耐えられなかった。

 

(浩一に捨てられたら、生きている意味もわからない……)

 

泰子にとって、浩一から別れを告げられることは、自分の存在価値を否定されることに等しいのだ。

 

それだけは、何としてでも避けなければならない。

 

泰子は、これまでも浩一の一挙手一投足に、常に気を配り、浩一の機嫌を損ねないように神経質といえるほど気を使ってきたが、それが最近一層ひどくなっている。

 

今や、生活が完全に浩一の機嫌を中心に回ってしまっている。

 

傍から見て痛々しいほどだ。

 

友達にも「あんた、その彼と一緒にいて楽しいの?」と聞かれることが多くなった。

 

実は、浩一は最近メールをやりとりしている女性、メグミに少し気を引かれていた。

 

正直言って泰子は少し重いのだ。

 

メグミはとてもかわいい女性だった。

 

泰子と一番違うところは、自分の要求をハッキリ言うことだった。

 

泰子は不満がありそうなのに「大丈夫だよ」「私はいいから」「浩一の好きなようにして」と言うのだ。

 

泰子とつき合うのは気疲れする。

 

浩一はメグミと出会ってそれに気づいてしまった。

 

メグミも浩一のことが好きだった。メグミは待てない性格だ。

 

浩一が泰子と仲良くしているのを想像すると、頭の中がカアッとなって、いても立つでもいられなくなる。

 

このような場合、先に取り乱した方が負け。

 

泰子には十分に勝ち目があっだのだが、残念ながら忍耐力が足りなかった。

 

泰子は耐えられなくなって、浩一の携帯メールをのぞいてしまったのだった。

 

そして、「今度いつ会える?」「メグミといると楽しいよ!」というような、メグミと浩一の熱々のやりとりを読んで、呆然となってしまった。

 

頭の後ろの方がシーンとしびれて、体中の力が抜けていった。

 

そして、そのショックが少し落ち着いてきた頃、猛烈な怒りを感じた。

 

(今までこんなに尽くしてきたのに、許せない!)

 

次の週末、泰子は浩一を呼び出した。

 

携帯メールの件で話し合いをするためだ。

 

「メグミちゃんとは友達だよ」

 

浩一はそう言ったが、泰子は納得できなかった。

 

しかし、体の関係があるわけでもない女性との関係を「気があります」「次の恋人候補です」と説明する男性はいないだろう。

 

話し合いはどこまで行っても平行線だった。

 

(私はこんなに浩一に尽くしてきたのに、裏切るなんて許せない!)

 

ついに泰子は泣き出してしまった。

 

こんなに不安で寂しいのに、浩一はわかってくれない。

 

自分を守る発言ばかりで……。

 

「私のこと、もう好きじゃないの?」

 

そう言って泰子が目を上げると、浩一が困惑した表情を浮かべている。

 

泰子の顔を見て、浩一の顔が引きつった。

 

(うわ、一生分の恨みをぶつけようとしているみたいだ……)

 

結局その日の話し合いは結論が出ないまま終わった。

 

そして、その後浩一からの連絡はなくなってしまった。

 

「自己犠牲タイプ」の解説

 

泰子は、「いい人」の仮面が外せなくなっています。

 

自分を犠牲にすることで「いい人」を演じ、相手から嫌われないようにしているのです。

 

そして、「自分には価値がない」「だから捨てられるかもしれない。怖い」という思いを必死に隠しています。

 

このタイプの人は「いい人」なので、身勝手な彼に振り回され、利用される傾向があります。

 

また、多くの場合、怒りを心の奥底に飲み込んでしまっています。

 

そして、心の奥底に飲み込んだ怒りは、まわりの人に移ることがあります。

 

「本当は怒っているのにいい人ぶっている」人に対して、怒りに敏感な人が腹を立てるのです。

 

そのため、このタイプの人はいじめられやすい傾向があります。

 

しかし、「いい人」の仮面を外せず、怒れないので、その攻撃をはねつけることができません。

 

また、我慢が限界を超えたときに突然怒り出したり、突然別れを切り出して相手をびっくりさせたりします。

 

また、うつ病や他の病気になってしまうこともあります。

 

人の価値は、経済的な成功のみで測れるものではありません。

 

また、性的な魅力のみで測れるものでもありません。

 

あなたがいることで、誰かがほっとしたり、勇気をもらえたりなど、精神的な部分も含めて、あなた自身の価値を見つめ直してみてください。

 

後述するワークを行ううちに、自分の価値を信じられない原因として、小さな頃にはめてもらった経験が少ないということに行き着くかもしれません。

 

ぜひ、それをきっかけとして、心の中にあるまだ十分成長できていない部分を発見し、さらなる成長につなげていってください。

 

 

このタイプに自分が近いと思う方は「自己犠牲タイプはこんな人」に関するページをお読みください。